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TCFD提言に基づく情報開示

TCFD提言に基づく情報開示

当社グループは、2020年7月に、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)による提言への賛同を表明しました。
TCFDの提言に沿って、気候変動に関する重要情報を以下の通り開示します。

ガバナンス

当社グループは、気候変動を含む環境問題は、重要な経営課題であると認識しています。そのため、気候変動対応全般についての最終的な意思決定・監督は取締役会が行います。
気候変動に関する経営の方針・方向性については、取締役会の諮問機関であるCSR・サステナビリティ委員会(社外取締役を委員長として年4回以上開催)において、気候関連のリスクおよび機会などを踏まえて提言を取りまとめ、取締役会に答申して、取締役会で最終的な意思決定を行っています。
また、「気候変動への対応」を含む優先的に取り組む課題の進捗については、サステナビリティ部門よりCSR・サステナビリティ委員会に報告し、同委員会にてレビュー・監視しています。CO2削減などの具体的な活動については、環境委員会(年2回開催)において目標の進捗管理や課題の確認をおこない、継続的改善を図っています。気候変動に関するリスクについては、リスクマネジメント委員会(年2回開催)において、全社的リスクマネジメントの中で評価しています。

CSR・サステナビリティ委員会は、環境委員会、リスクマネジメント委員会をはじめとする各専門委員会を監督する機能を担っています。各専門委員会が、それぞれ専門の業務執行が有効に機能していることをモニタリングし、CSR・サステナビリティ委員会が、各専門委員会が有効に機能しているかを監督しています。各専門委員会で報告・審議・決定されたCO2削減の進捗やリスク評価などの重要な情報はCSR・サステナビリティ委員会にも共有されています。
なお、各専門委員会での重要決定事項は、業務執行における重要事項を審議・決定・監督する経営会議を通じて取締役会に報告され、取締役会が監督しています。
また、気候変動対策を役員が率先して推進していくため、取締役(監査等委員である取締役および社外取締役を除く。)および執行役員(雇用型執行役員を除く。)を対象とする業績連動型株式報酬制度において、CO2排出量削減率を指標の一つとしています。

  • 2022年6月に監査等委員会設置会社に移行し、CSR・サステナビリティ委員会を取締役会の諮問機関として位置づけました。

これまでに気候変動に関して議論され決定された例

  • 優先的に取り組む課題「CO2排出量:30%削減 [2018年度比](2030年度)」の承認(2020年3月CSR・サステナビリティ委員会)
  • TCFD提言への賛同表明(2020年7月経営会議)
  • 「エコビジョン2030」の承認(2021年3月環境委員会)
  • 「2050年に向けてカーボンニュートラルを目指す」の承認(2021年3月CSR・サステナビリティ委員会)

戦略(リスク・機会)

気候変動に対するシナリオ分析

気候関連のリスク・機会について、川上から川下までのサプライチェーン全体を見渡して、短期、中期、長期における社会動向や規制動向などを予測し、TCFD提言の例示を参考にしながら、幅広くリスク・機会の項目を挙げました。
そして、列挙したリスク項目について、主に2℃シナリオの途上に起こる「低炭素経済への移行に関するリスク」と、世界のCO2排出量削減未達により4℃シナリオに至った場合に発生する「気候変動による物理的変化に関するリスク」を想定し、TCFDの分類に沿って整理したうえで事業インパクトを評価しました。具体的には、サステナビリティ部門にて議論を重ねてリスク項目を洗い出し、事業インパクトと評価を起案しました。また、列挙した機会項目については、「気候変動緩和策・適応策による経営改革の機会」についてTCFDの分類に沿って整理し、検討しました。
そのうえで、サステナビリティ部門の管掌役員、リスクマネジメント部門・環境部門などの関係部門と協議・検討しました。取りまとめた気候変動に関するリスク・機会は、CSR・サステナビリティ委員会に報告し、確認しました。

<検討に用いた主なシナリオや予測>
2℃シナリオ:IPCC RCP2.6、IEA ETP 2DS など
4℃シナリオ:IPCC RCP8.5、IHS Markit Automotiveの“Mobility and Energy Future” サービスデータ など

なお、ここでいう短期、中期、長期は、次の通りです。
短期:中期経営計画の目標年度に合わせた2025年頃まで
中期:長期経営計画の目標年度に合わせた2030年頃まで
長期:長期経営計画の目指す姿に合わせた2040年頃まで

<気候関連のリスク>

リスク項目 事業インパクト(リスク) 評価
(影響度)
リスクが
現れる時期
低炭素経済への移行に関するリスク 政策・
法規制
炭素税 ・炭素税が導入されると燃料調達コストに税金が課されることになるため、エネルギーコストや原材料コストが増加する。 中期~長期
国境炭素税 ・国境炭素税が導入されると、輸出する製品に課税されることになるため、製品の価格競争力が低下する。 短期~長期
炭素排出規制 ・GHG削減目標の達成が求められ、設備投資や再エネ電力購入等の対応コストが増加する。 中期~長期
ガソリン車販売 ・ガソリン車の新車販売を禁止する国では、OEM需要が無くなり、売上が減少する。 中期~長期
技術 省エネ・再エネ技術の普及 ・新たな省エネ・再エネ技術を導入するために、設備投資等の対応コストが増加する。 中~大 短期~長期
新技術開発 ・新技術への研究開発の投資コストが増加する。 短期~長期
市場 顧客の変化 ・2030年代以降に中古車でもZEVを選ぶ人が増え、プラグの交換需要が減少し、売上が減少する。
・ライフサイクルでのCO2排出量が少ない製品が選ばれるようになり、従来品の売上が減少する。
長期
評判 投資家の変化 ・内燃機関への風当たりが強くなり、ダイベストメントの対象となる。 小~中 中期~長期
求職者の変化 ・内燃機関への風当たりが強くなり、就職先として選ばれなくなる。 小~中 短期~中期
気候変動による物理的変化に関するリスク 急性 異常気象の激甚化 ・台風等によって工場等への被害が発生し、操業停止や生産減少などが起こる。また、設備復旧への追加コスト等が発生する。損害保険料も増加する。 小~中 短期~長期
慢性 海面の上昇 ・海面上昇に伴って洪水や高潮が増加し、沿岸部にある工場や交通インフラが被害を受けてサプライチェーンが寸断され、対応コストが発生する。 小~中 長期
降水・気象パターンの変化 ・水不足が深刻化する地域にある工場で水利用が制限され、操業を停止・減少せざるを得なくなり、別工場での生産や輸送などの対応コストが発生する。 小~中 長期
平均気温の上昇 ・猛暑の中で働く従業員に熱中症が頻発し、体力的な負担が増加するため、猛暑対応のためのコストや人件費が増加する。 小~中 長期

また、主要な事業拠点を対象に、現状の洪水・渇水・高潮等のリスクポテンシャル調査を行い、想定される被害の程度や頻度を勘案した結果、深刻な被害が発生する可能性は低いことが分かりました。
一方、将来の洪水・渇水・高潮等のリスクポテンシャル調査も行ったところ、降水量の増加が見込まれる地域があることが分かりました。しかし、洪水や土砂崩れなどのリスク増に直結するか否かは、各事業拠点の立地(地盤、標高、河川との距離など)や治水対策の状況によるため、引き続き調査を行っていきます。

<気候関連の機会>

側面 主な機会 機会が
現れる時期
資源の効率性 ・新たな省エネ・再エネ技術の社内への導入が進み、エネルギーコストが減少する。 中期~長期
エネルギー源 ・炭素税が課税されない燃料として水素の需要が高まり、水素エネルギー市場で新たな機会が生まれる。
・メタネーションなどの技術が発達し、eFuelなどの合成燃料が普及すると、現状の内燃機関ビジネスが継続される。
長期
製品/サービス ・燃費規制に対応していくために、高付加価値製品の需要が増える。 短期~中期
・GHG削減が義務化されることで水素エネルギー市場が拡大すると予想され、水素関連技術やSOFC、SOECの需要が高まって、ビジネス機会が生まれる。 長期
・電気を利用して水素を作る(SOEC)、回収したCO2を燃料にするなどのCO2循環関連ソリューションの需要が高まる。 長期
・災害に備えて、エネルギーの地産地消(分散型の発電)が注目され、SOFCの需要が高まる。 長期
・電気モーターや発電機に使われるセラミック関連技術・製品の需要が高まる。 中期~長期
市場 ・社会のニーズを捉えた気候変動に関連する新技術を開発することで、ビジネス機会が生まれる。 中期~長期
強靭性(レジリエンス) ・災害に備えて、サプライチェーンも含めてBCM/BCPを継続的に強化していくことで、レジリエンスが高まる。 短期~長期

気候関連シナリオに基づく事業のリスクと機会とその対応

気候変動のリスクと機会をより具体的にするため、各事業について、2℃および4℃シナリオ下における事業環境とその対応について検討しました。

その結果、物理的リスクについての致命的な影響は見受けられませんでした。
事業については、現在、売上収益の8割を占める内燃機関に関連する事業が大きな変革を迫られていること、その一方で、脱炭素社会の実現に向けて、水素関連をはじめとして新たなニーズや市場が期待されることから、「2030 長期経営計画 日特BX」において、今後注力する事業分野の一つに「環境・エネルギー」を掲げ、2040年に向けて事業ポートフォリオ転換(売上収益構成比率:内燃機関事業40%、非内燃機関事業60%)を進めていきます。

検討対象とした事業 製品 今後の事業リスクと事業機会への対応 財務面の影響 長期経営計画での売上収益目標
自動車関連事業 スパークプラグ、グロープラグ、センサー 2℃シナリオ下では、内燃機関を有する自動車への規制が厳しくなることで、将来、内燃機関部品の売上減少が想定される。一方で、電動車市場などの新市場への機会が生じる。
4℃シナリオ下では、内燃機関のさらなる省エネと有害ガスの排出抑制が求められるため、高性能化への対応を行う。
売上収益の一部に影響※1 4,500億円(2029年度)
燃料電池事業 燃料電池 2℃/4℃のいずれのシナリオ下においても非化石エネルギーの需要拡大が予想されるため、当該市場への対応を引き続き強化。
2℃シナリオにおいては、水素インフラの普及が予想され、加速的に市場が増える可能性がある。
2000億円規模の市場が予想され、水素インフラの普及状況によっては上振れの可能性あり 3,000億円(2029年度)
その他の事業 SPE、パッケージ、酸素濃縮装置、ベアリング用ボールなど 2℃/4℃のいずれのシナリオにおいても、リスクおよび機会への影響は小さい。 小さい
 
  • 自動車関連事業は2℃シナリオ下において、規制強化により将来的に売上減少が見込まれるため、事業ポートフォリオ転換が必要である。
  • その他の事業については、2℃および4℃いずれのシナリオ下においても、市場の動向を注視し、柔軟かつ戦略的に事業を展開しており、中・長期の観点からも高いレジリエンス性を有している。
  1. 内燃機関事業の財務面の影響額について
    IHS Markit Automotive の分析に基づく当社予測では、各国の気候変動対策によって内燃機関への規制が進むことで、内燃機関を有する自動車は2030年代半ば以降減少すると予想しています。一方、当社の内燃機関事業の中核であるスパークプラグは、新車用だけでなく補修用の需要もあり、当社予測では、引き続き内燃機関を有する自動車が保有されていると考えられることから、2040年以降に売上がピークを迎え、徐々に下降していくことを予想しています。こうした状況を踏まえて、内燃機関事業の売上収益が2040年度以降に2023年度から5%減少すると仮定して試算すると、売上収益の減少額は250億円、営業利益の減少額は60億円程度になります。

    2023年度の内燃機関事業の売上収益:5,053億円
    2023年度の内燃機関事業の営業利益:1,212億円
    2040年度以降の内燃機関向け製品の売上減少割合の仮定値:5%
    売上収益 : 5,053億円×5%=253億円
    営業利益 : 1,212億円×5%=61億円

リスク管理

当社グループはグローバルかつ多くの分野で事業を展開しており、事業ごとにさまざまなリスクと機会があることから、事業ごとにリスクと機会を把握して、それぞれに対応しています。気候変動に関するリスクと機会についても、規制動向などを注視して事業への影響をそれぞれに評価し、対応しています。
リスクマネジメント委員会では、リスクについて、全社的見地で事業存続や目標達成に大きな影響を及ぼすか否かを、影響度と発生可能性、およびその対策状況を分析して評価しています。重点的な対応が必要と評価されたリスクは「優先リスク」として主管部門を定め、リスクマネジメント委員会で低減活動の状況を確認しています。気候変動や人権をはじめとするESGに関するリスクについても併せて評価しています。一方、重要な機会については、CSR・サステナビリティ委員会で確認し、必要に応じて経営戦略や優先的に取り組む課題に反映しています。

指標と目標

当社グループは、2020年5月に発表した長期経営計画「2030 長期経営計画 日特BX」において、「CO2排出量:30%削減 [2018年度比](2030年度)」という目標を掲げています。
また、長期的な視野で環境保全活動を進めるため、2021年4月に「エコビジョン2030」を策定し、その中で2050年に向けてカーボンニュートラルを目指すという長期目標を掲げました。
エコビジョン2030では、重要4課題として、気候変動への対応、環境配慮製品の拡充、水資源の保全、廃棄物管理を挙げています。環境配慮製品の拡充は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)やカーボンニュートラル・アズ・ア・サービスなど、気候変動対応やCO2削減をはじめとする環境配慮製品・サービスの提供を目指すものです。また、水資源の保全のために節水にすることや、資源投入量や廃棄物排出量を削減することは、CO2排出量の削減に繋がります。したがって、これらを重要4課題と設定し、個別の課題として取り組むのではなく、相互に関係する課題として取り組んでいくことで、よりシナジーのある対応を目指しています。
これら目標の達成に向けて取り組みをより一層推進するため、取締役(監査等委員である取締役及び社外取締役を除く。)および執行役員(雇用型執行役員を除く。)を対象とする業績連動型株式報酬制度において、評価指標の一つに「CO2排出量削減率」を定めています。また、グループが一丸となってCO2削減の取り組みを進めていくため、ICP(インターナルカーボンプライシング)を導入しています。CO2排出量1トンあたり10,000円を排出部門から徴収し、徴収した金額は、社内環境ファンドとして脱炭素のための投資支援やインフラ整備に充当しています。
サプライチェーンも含めたスコープ3の削減も推進していきます。スコープ3においては、まずはカテゴリ1「購入した製品・サービス」、カテゴリ4「輸送、配送(上流)」の一部、カテゴリ11「販売した製品の使用」の各カテゴリで2030年度 30%削減(2018年度比)を目指します。また、お取引先さま(サプライヤー)に対してはCO2の削減目標を設定して取り組むよう求めており、適宜支援をおこなっていきます。

<CO2削減目標と実績>

項目 目標 実績
スコープ1・2 2030年度 30%削減
(2018年度比)
2023年度 31.7%削減
(2018年度比)
<排出量19.1万トン>
<原単位0.49トン/百万円>
スコープ3:
カテゴリ1「購入した製品・サービス」
カテゴリ4「輸送、配送(上流)」の一部
カテゴリ11「販売した製品の使用」
2030年度 30%削減
(2018年度比)
2023年度 13.4%減少
(2018年度比)
<排出量951万トン>
  • 上記のCO₂削減目標は、科学的根拠に基づく目標(SBT、Science-based targets)として、2022年6月にSBTイニシアチブより、WB2℃(well-below 2℃)の認定を取得しました。
日本特殊陶業株式会社